2025.11.20
【2025年11月】サービス業における現金及び預金増加率ランキング|資本配分戦略への関心高まる
ダウンロードページに、「現金及び預金増加率ランキング サービス業編」を掲載しました。
当社が保有する企業情報データベースeolより、上場しているサービス業のうち5年間の増加率上位30社の現金及び預金データを抽出し、ランキング表としてまとめたものです。

サービス業全体の現預金動向 ー 240社中約8割が増加、財務戦略が二極化
今回の集計では、2019年(2019年7月~2020年6月決算)と2024年(2024年7月~2025年6月決算)を比較し、サービス業全体240社の5年間増加率を算出しました。
データ分析の結果、240社中186社(全体の約8割)で現金及び預金が増加していました。増加を記録した企業の増加率の分布を見ると、500%超が3社、300%超500%以下が6社、200%超300%以下が11社、100%超200%以下が40社となっており、5年間で現金及び預金が2倍以上になった企業が相当数存在することが分かりました。一方、54社(全体の約2割)では減少しており、企業ごとの財務戦略の違いが明確に表れています。
2019年と2024年のデータ(現金及び預金/有利子負債)が取得できた連結決算企業のみ算出し、期間中の新規上場企業及び上場廃止企業は含んでおりません。
TOP30企業分析 ー 増加率180%超、首位は約19倍の増加
増加率上位30社に注目すると、すべての企業が180%を超える高い増加率を達成しています。トップ企業は約19倍、30位でも約2.8倍に増加しており、平均増加率は約316%と非常に高い水準となっています。
第1位:株式会社アンビスホールディングス
増加率1,861.9%で圧倒的な首位を獲得しました。4億5,200万円から88億6,800万円へと84億1,600万円増加しており、5年間で約19倍という突出した成長を記録しています。
第2位:ポラリス・ホールディングス株式会社
増加率613.6%で第2位となりました。10億5,300万円から75億1,400万円へと64億6,100万円増加し、5年間で約7倍の成長を記録しています。
第3位:バーチャレクス・ホールディングス株式会社
増加率556.3%で第3位にランクインしました。2億800万円から13億6,500万円へと11億5,700万円増加し、5年間で約6.5倍の成長を記録しています。
現金及び預金増加の評価 ー 財務安全性と資本効率性のトレードオフ
現金及び預金の増加は、企業の財務状況を評価する上で両面から検討する必要があります。
財務安全性の向上:
流動性の確保により不測の事態や景気変動への対応力が向上し、M&Aや設備投資の機会を逃さない体制を構築できます。また、金融機関や取引先からの信用力も向上します。
資本効率性への懸念:
現金及び預金は利回りが低く、ROE低下の要因となります。成長投資や株主還元に回すべき資金が滞留することで機会損失が発生し、市場から「資金を有効活用していない」との指摘を受ける可能性があります。
有利子負債から見る財務戦略 ー 3つの企業動向
さらに別の側面から企業の財務戦略を分析するため、今回は各企業の返済が必要な借入額(有利子負債)と現金及び預金のバランスを確認しました。有利子負債から現金及び預金を差し引いた「純有利子負債(有利子負債−現金及び預金)」がマイナス(▲)の場合、実質無借金経営と言われます。
動向1:実質無借金経営を強化・維持する企業
綜合警備保障株式会社:<2019年>▲12兆307億円 ⇒ <2024年>▲13兆5,482億円へと実質無借金経営を強化
株式会社リクルートホールディングス:<2019年>▲2,846億円から<2024年>▲8,076億円へと実質無借金経営を強化
セコム株式会社:<2019年>▲5,010億円 ⇒ <2024年>▲5,054億円へと実質無借金経営を維持
動向2:有利子負債を増加させる企業
株式会社ワールドホールディングス:<2019年>363億円 ⇒ <2024年>859億円へと496億円増加
株式会社アンビスホールディングス:<2019年>21億円 ⇒ <2024年>244億円へと223億円増加
株式会社共立メンテナンス:<2019年>930億円 ⇒ <2024年>1,486億円へと556億円増加
動向3:有利子負債を減少させる企業
株式会社電通グループ:<2019年>6,239億円 ⇒ <2024年>5,473億円へと766億円減少
株式会社エイチ・アイ・エス:<2019年>2,459億円 ⇒ <2024年>1,991億円へと468億円減少
リゾートトラスト株式会社:<2019年>693億円 ⇒ <2024年>80億円へと613億円減少
財務戦略の3分類 ー サービス業の約4割が「現預金・有利子負債の同時増加」型
現金及び預金と有利子負債から分析した結果、今回のデータからは、企業の財務戦略が大きく3つのパターンに分かれることが確認できました。
<パターン1> 財務健全化型(現預金増加・有利子負債減)|全体の約3割
財務健全化を優先し、現金及び預金を増やしながら有利子負債を削減している企業です。パーソルホールディングス株式会社は現金及び預金が約46億円増加する一方、有利子負債を約407億円削減し、財務健全化を大幅に進めました。このパターンは財務安全性が大幅に向上する反面、積極的な成長投資を控えている可能性があります。78社(全体の約3割)がこのパターンに該当します。
<パターン2> バランス成長型(現預金増加・有利子負債増加)|全体の約4割
事業拡大のために借入を増やしつつ、現金及び預金も確保している企業です。株式会社ワールドホールディングスや株式会社共立メンテナンスがこのパターンに該当します。成長戦略を推進しながら財務の安全性も確保するバランス型の戦略と言えます。107社(全体の約4割)がこのパターンに該当し、最も多い財務戦略となっています。
<パターン3> 積極投資・還元型(現預金減少)|全体の約2割
積極的な設備投資や事業拡大、株主還元を優先し、現金及び預金が減少している企業です。このような企業は現金及び預金を「有効活用している」との見方もできますが、財務安全性の低下リスクも存在します。54社(全体の約2割)がこのパターンに該当します。
資本配分戦略の重要性 ー ガバナンス改革と説明責任の高まり
今後、現金及び預金と有利子負債のバランスをどのように最適化していくかが、各企業の重要な経営課題となることが予想されます。コーポレートガバナンス改革の実質化に関する議論が進む中、投資家や市場関係者からの関心がさらに高まっており、各企業には保有理由の合理性、成長投資への具体的な活用計画、株主還元政策とのバランス、資本効率性の改善策など、資本配分戦略に関する丁寧な説明が求められる局面を迎えていると考えられます。
特に実質無借金経営の企業や、現金及び預金が大幅に増加した企業については、その保有理由や今後の活用方針について、株主や投資家に対する透明性のある説明が重要になると考えられます。企業の資本政策における透明性の向上が、今後の重要な経営課題として位置づけられていくものと見込まれます。
データのご案内
本記事の分析に使用した現金及び預金増加率データの一部を当社ウェブサイトからダウンロードいただけます。このデータには、「サービス業における5年間増加率TOP30」が含まれており、企業分析や業界動向の把握にお役立ていただけます。
当社では、このような詳細な企業データを網羅しており、企業や業界分析、業界動向の調査等にご活用いただけるデータベースをご提供しております。さらにデータが必要な場合や、ご興味がございましたら、お問い合わせフォームより、お気軽にお問い合わせください。
本記事で使用しているデータは当社独自の基準で算出しており、各企業が決算資料等で開示している値と異なる場合があります。