Insight
インサイト
当社の各種サービスを活用して作成したレポートやサンプルデータを定期更新しています。
Latest by Category
カテゴリ別新着記事
経済指標
各種メディアで注目される主要経済指標の時系列データとグラフをわかりやすく公開しています。 当社データベース「INDB Accel」「INDB Finder Pro」の収録データを活用したサンプル集として、データの品質や活用イメージをご確認いただけます。
-
NEW 2026.6.17 DL資料【2026年6月】国内企業物価指数は134.5(前年比+6.3%)と大きく上昇 ナフサなどを含む石油・石炭製品も前年比+13.8%と急騰 2026年5月時点の時系列推移データ分析
日本銀行が公表している「企業物価指数」につき、データからわかる動向・特徴について紹介します。 また当社が提供する経済統計データベースサービス INDB Accelから取得した過去5年(60カ月)分のデータも掲載しておりますので、あわせてご利用ください。 国内企業物価指数の総平均は134.5(前年比+6.3%)と大きく上昇 日本銀行が2026年5月の企業物価指数データを公表しました。 国内企業物価指数の総平均は134.5(前年比+6.3%)となり、右肩上がりに企業間での物価が上昇していることがわかります。 総平均の前年比は、2月+2.1%、3月+2.8%、4月+5.3%と月を追うごとに伸びが拡大していましたが、5月は+6.3%となり、上昇の勢いがさらに加速する結果となりました。 大類別の「工業製品」は132.0(前年比+6.5%)となり、「工業製品」の前年比が+6%を超えるのは、2023年2月(+6.5%)以来、3年3カ月ぶりの上昇幅となります。 ナフサ・エチレンなどの石油・石炭製品が急騰 公表されている515品目のうち、約8割にあたる418品目で前年比がプラスとなり、企業間でのモノの取引価格が大きく上昇しています。 2026年5月データで、前年比での増加が特に大きい品目についてピックアップしました。 ナフサ:わずか3カ月で価格が急騰し、前年比+79.4%を記録 ナフサの国内企業物価指数は367.6(前年比+79.4%)となり、3月までマイナス推移でしたが、4月以降はプラスに転じ、2か月連続で前年比70%超と大きく上昇しています。 指数でみても、2026年2月(200.7)からわずか3か月で約1.8倍に跳ね上がっていることがわかります。同じく石油製品に分類されている液化石油ガス(LPG)も、前年比+40.3%と急上昇しています。 キシレン:前年比+81.6%へ急拡大し、上昇幅が加速 キシレンの国内企業物価指数は342.4(前年比+81.6%)となりました。2024年8月から19か月連続で前年比がマイナスでしたが、2026年3月から3か月連続(3月:+12.5%→4月:+58.0%→5月:+81.6%)で、前年比が拡大しています。 同じく石油化学系芳香族製品に分類されているベンゼンも前年比+65.0%となり、2026年4月以降大きく価格が上昇しています。 エチレン: 2020年比で約3倍 前年比+60.7%と高騰継続 エチレンの国内企業物価指数は、298.9(前年比+60.7%)となりました。前月からは上昇率は鈍化しましたが、2か月連続で前年比が60%を超え(4月:+67.6%→5月:+60.7%)、2020年の基準値(100)と比較すると約3倍という高水準に到達しています。同じく石油化学基礎製品であるプロピレン、ブタン・ブチレン・ブタジエンも大きく高騰しており、身近なプラスチック製品に用いられる原材料の高止まりが続いています。 ポリエチレン:前年比+27.7%と上昇幅が拡大 ポリエチレンの国内企業物価指数は214.1(前年比+27.7%)となりました。製品原料が値上がりした影響を受け、先月の前年比+0.5%から大きく上昇する結果となりました。 類別に位置するプラスチック製品全体も前年比+4.3%と上昇しており、原材料費のコスト増の影響がデータに表れています。 ナフサやエチレンをはじめとする石油由来の原材料価格が高水準で推移しています。石油由来製品のコスト増がパッケージ代や物流費などに波及し、最終的に企業活動や消費者にどのような影響を及ぼすのか注目されます。 企業物価指数とは 企業物価指数(CGPI:Corporate Goods Price Index)とは、企業間で取引される財の価格変動を測定する重要な経済指標です。日本銀行が毎月公表しており、基準年(現在は2020年)を100として指数化しています。国内で生産された財の国内向け取引価格をみる国内企業物価指数、輸出品の価格をみる輸出物価指数、輸入品の価格をみる輸入物価指数の3つを基本分類指数として構成されています。国内の需給動向や為替変動の影響、輸入インフレ圧力などを把握できるため、景気判断や金融政策、各種経済分析で広く利用されています。 当社では、このデータを1960年よりデータベース化し、時系列データとして簡単にご利用いただけるよう提供しております。 (今回紹介したデータは下記よりダウンロードいただけます。) 経済統計データベース「INDB Accel」で実現する効率的なデータ分析 本記事の分析に使用したデータは、当社が提供する経済統計データベースINDB Accelを活用して作成しました。 INDB Accelでは、各種公的統計や経済データを長期時系列で横断的に取得でき、効率的なデータ収集と分析を実現します。 INDB Accelの詳細な機能や具体的な導入事例、無料トライアルのお申し込みや詳しい資料請求については、お問い合わせフォームより、お気軽にご連絡ください。
-
NEW 2026.6.4 DL資料経済指標グラフ(2026年6月)
当社の経済統計データベースサービスINDB Accelを活用し、主要経済指標の時系列データとグラフを毎月更新・提供しております。直近5年分のデータを、景気や物価・貿易などの動向をひとまとめにご確認いただけます。 【ご提供データ例】 出典 統計名 月次 財務省 貿易統計 内閣府 機械受注統計調査報告 景気動向指数 総務省 労働力調査 消費者物価指数 日本銀行 マネーストック 資源エネルギー庁 石油製品価格調査 四半期 内閣府 国民経済計算 日本銀行 全国企業短期経済観測調査 財務省 法人企業統計(季報)
-
2026.5.20 DL資料【2026年5月最新】石油備蓄日数は233日 原油輸入の中東依存度は95.9%(石油備蓄推移データ分析)
資源エネルギー庁が公表している「石油備蓄の現況」と「石油統計速報」につき、データからわかる動向・特徴についてご紹介します。 また当社が提供する経済統計データベースサービス INDB Accelから取得した過去5年(60カ月)分のデータも掲載しておりますので、あわせてご利用ください。 2026年3月末時点の石油備蓄日数は233日、民間備蓄の落ち込みが影響 資源エネルギー庁が2026年3月末時点の石油備蓄の現況を公表しました。 2026年3月末時点の石油備蓄日数は233日(内訳:国家備蓄146日、民間備蓄81日、産油国共同備蓄6日)となり、前月から10日分減少しました。 これにより、2024年7月から20カ月連続で維持していた「240日以上」の水準を下回る結果となりました。 また、石油製品の備蓄量は、合計で6,572万㎘(内訳:国家備蓄4,102万㎘、民間備蓄2,295万㎘、産油国共同備蓄175万㎘)となりました。前月(合計6,862万㎘)と比較すると、全体で約4.2%(290万㎘)の大幅な減少となっています。 内訳の変動を見ると、国家備蓄は4,111万㎘から4,102万㎘への微減、民間備蓄は2,573万㎘から2,295万㎘(マイナス278万㎘)へと減少しています。 全体の備蓄量の大幅な減少は、主にこの民間備蓄の落ち込みが要因となっていることがデータから読み取れます。次月以降もこの減少傾向が続くのか、今後の動向が注目されます。 原油輸入の中東依存度は95.9%。6ヶ月連続で前年同月を下回るも依然高水準 資源エネルギー庁が公表している2026年3月時点の石油統計速報では、原油の総輸入量に対して、中東からの輸入量が95.9%を占める結果となりました。 前年同月に比べ1.0ポイント減となり、6ヶ月連続で前年を下回ったものの、依然として極めて高い水準で推移しています。 石油統計速報から総輸入量と原油輸入上位3か国について、読み取れる内容をまとめました。 輸入総量:前年同月比・前月比ともに減少傾向 輸入総量は1,039万㎘となりました。前月(2026年2月:1,177万㎘)から約11.7%減となり、前年同月(2025年3月:1,244万㎘)と比較しても約16.5%の減少を記録し、減少基調が鮮明になっています。 サウジアラビア:全体輸入量の52.1%を占める サウジアラビアからの輸入量は541万㎘(前年同月比110.2%)となりました。輸入総量が大きく減少する中、前年同月比でプラスを維持しており、全体輸入量に占める割合は52.1%と半数を超え、同国への高い依存状態が継続していることがわかります。 アラブ首長国連邦:前年同月比78.3%と下落も、約4割の依存 アラブ首長国連邦からの輸入量は404万㎘(前年同月比78.3%)となりました。前年同月比ではマイナスとなったものの、依然として全体輸入量の38.9%を占めており、同国への依存は根強いことが示されています。 クウェート:前年同月比36.1%の大幅減、減少傾向が顕著に クウェートからの輸入量は30万㎘(前年同月比36.1%)となりました。過去5年で最大の輸入量だった2022年8月(153万㎘)から約8割減少しています。直近5年間の毎年3月データは概ね80万〜100万㎘程度(2021年:89万㎘、2022年:100万㎘、2023年:104万㎘、2024年:81万㎘、2025年:83万㎘)で推移してきましたが、今回の30万㎘はそれらを大きく下回る結果となりました。 輸入総量に対して、サウジアラビアとアラブ首長国連邦の2カ国で全体の約90.9%を占めており、中東の主要2カ国への極めて高い依存状態がさらに強まっていることがうかがえる結果となりました。 なお、本データは2026年3月末時点のものです。中東から日本への海上輸送に約20日を要するため、3月末時点ではホルムズ海峡周辺の通航制約の影響は限定的とみられます。4月以降のデータにはこうした情勢の影響が本格的に反映されてくる可能性があり、中東地域からの輸入量の推移が注目されます。 石油統計速報および石油備蓄の現況|国内供給安定化に向けた重要指標 「石油備蓄の現況」とは、資源エネルギー庁が公表している、国家備蓄・民間備蓄・産油国共同備蓄の3つの備蓄方法における保有量と備蓄日数を示す統計です。国内の石油供給安定性と対外有事対応の備えを可視化する重要なデータです。 「石油統計速報」とは、資源エネルギー庁が原油の輸入国別データや、石油製品生産・在庫及び半製品在庫を調査し、翌月末に公表している統計です。原油輸入明細から中東依存度などの数値が公表されています。 当社では、このデータを1985年よりデータベース化し、時系列データとして簡単にご利用いただけるよう提供しております。 (今回紹介したデータの一部は下記よりダウンロードいただけます。) 経済統計データベース「INDB Accel」で実現する効率的なデータ分析 本記事の分析に使用したデータは、当社が提供する経済統計データベースINDB Accelを活用して作成しました。 INDB Accelでは、各種公的統計や経済データを長期時系列で横断的に取得でき、効率的なデータ収集と分析を実現します。 INDB Accelの詳細な機能や具体的な導入事例、無料トライアルのお申し込みや詳しい資料請求については、お問い合わせフォームより、お気軽にご連絡ください。
ランキング
当社が提供している豊富なデータベースをもとに、様々な切り口でランキングを作成・公開しています。 企業研究や業界動向の把握、同業他社比較など、ビジネスのヒントとしてお役立てください。
-
NEW 2026.6.17 DL資料【2026年6月】12月決算上場企業の業種別営業利益率ランキング|労働生産性で見る付加価値創出力
当社が保有する企業情報データベースeolおよび人的資本パッケージより、2025年12月期決算の連結財務データを取得できる企業を抽出し、業種別の売上高営業利益率と労働生産性をまとめました。 本記事では、まず業種別の売上高営業利益率ランキングを確認し、そのうえで補足指標として労働生産性を用いて、営業利益率と付加価値創出力の関係を考察します。 売上高営業利益率は、売上高に対して営業利益がどの程度残っているかを示す指標です。一方、労働生産性は、従業員1人当たりでどれだけの付加価値を生み出しているかを確認するための指標です。 無駄なく効率的に働き(労働生産性の向上)、高い付加価値を生み出すことで、最終的に会社に残る儲けの割合(営業利益率)が高い業界、企業があるのか考察します。 業種別営業利益率ランキング|鉱業49.11%、証券・商品先物取引業42.63%で上位 まず、12月決算の上場企業(連結企業)を対象に、業種別の平均売上高営業利益率を確認しました。 業種平均で見ると、売上高営業利益率が最も大きい業種は、鉱業の49.11%でした。次いで、証券、商品先物取引業が42.63%、医薬品が24.07%、不動産業が19.67%、精密機器が13.77%となっています。 業種別 平均売上高営業利益率ランキング 上位10業種 順位 業種 平均売上高[百万円] 平均営業利益[百万円] 平均売上高営業利益率[%] 平均労働生産性[円] 1 鉱業 1,093,403 536,968 49.11 168,247,179 2 証券、商品先物取引業 27,283 11,631 42.63 64,347,017 3 医薬品 258,123 62,118 24.07 ▲31,609,711 4 不動産業 93,394 18,368 19.67 37,343,873 5 精密機器 88,316 12,160 13.77 6,126,900 6 情報・通信業 40,278 4,877 12.11 3,057,833 7 その他製品 130,919 15,137 11.56 2,933,432 8 食料品 644,813 71,045 11.02 6,105,191 9 電気機器 263,124 28,260 10.74 1,129,631 10 ゴム製品 1,514,027 144,626 9.55 4,805,662 ※平均値は各企業の売上高営業利益率および労働生産性を算出したうえで、業種ごとに集計しています。 鉱業は、平均売上高が1,093,403百万円、平均営業利益が536,968百万円、平均売上高営業利益率が49.11%となりました。今回の対象業種の中では、売上高に対して営業利益が大きく残る業種として表れています。 証券、商品先物取引業は、平均売上高が27,283百万円、平均営業利益が11,631百万円、平均売上高営業利益率が42.63%となりました。売上規模は鉱業と比べて小さいものの、売上高に対する営業利益の割合は高い水準です。 また、医薬品は営業利益率が24.07%で3位となりました。一方で、平均労働生産性は▲31,609,711円となっており、営業利益率と労働生産性が同じ方向に表れていない点が特徴的です。このような違いを確認するため、次章では補足指標として労働生産性を見ていきます。 労働生産性分析|鉱業が1億6,824万円でトップ 営業利益率は、売上高に対する営業利益の割合を示す指標です。収益性を見るうえで分かりやすい一方、企業がどの程度の人員規模で付加価値を生み出しているかまでは把握しにくい面があります。 そこで、補足指標として労働生産性を確認します。 業種別 平均労働生産性ランキング 上位10業種 順位 業種 平均売上高[百万円] 平均営業利益[百万円] 平均売上高営業利益率[%] 平均労働生産性[円] 1 鉱業 1,093,403 536,968 49.11 168,247,179 2 証券、商品先物取引業 27,283 11,631 42.63 64,347,017 3 不動産業 93,394 18,368 19.67 37,343,873 4 小売業 112,207 9,805 8.74 9,140,858 5 輸送用機器 763,534 42,434 5.56 7,492,487 6 化学 385,612 31,933 8.28 7,380,583 7 繊維製品 31,998 2,482 7.76 6,933,320 8 電気・ガス業 159,436 8,956 5.62 6,538,667 9 精密機器 88,316 12,160 13.77 6,126,900 10 食料品 644,813 71,045 11.02 6,105,191 ※平均値は各企業の売上高営業利益率および労働生産性を算出したうえで、業種ごとに集計しています。 労働生産性ランキングでも、鉱業と証券、商品先物取引業が上位となりました。特に鉱業は、営業利益率ランキングと労働生産性ランキングの双方で1位となっており、売上高に対する利益の残りやすさと、従業員1人当たりの付加価値創出力の両面で高い水準にあります。 一方で、営業利益率ランキング3位の医薬品は、労働生産性ランキングでは上位に入りませんでした。営業利益率は売上高に対する営業利益の割合であるのに対し、労働生産性は粗付加価値を従業員数の2期平均で割って算出します。そのため、営業利益率が高い業種であっても、粗付加価値や従業員数の構成によって、労働生産性の水準は異なることが考えられます。 営業利益率ランキングと労働生産性ランキングの比較|上位業種は一部共通するが順位は一致しない 営業利益率ランキングと労働生産性ランキングを比較すると、上位業種には一部共通する業種が見られる一方で、順位が大きく異なる業種もあります。 営業利益率ランキング上位業種と労働生産性の比較 業種 営業利益率順位 平均売上高営業利益率[%] 労働生産性順位 平均労働生産性[円] 鉱業 1 49.11 1 168,247,179 証券、商品先物取引業 2 42.63 2 64,347,017 医薬品 3 24.07 27 ▲31,609,711 不動産業 4 19.67 3 37,343,873 精密機器 5 13.77 9 6,126,900 情報・通信業 6 12.11 19 3,057,833 その他製品 7 11.56 20 2,933,432 食料品 8 11.02 10 6,105,191 電気機器 9 10.74 25 1,129,631 ゴム製品 10 9.55 11 4,805,662 鉱業と証券、商品先物取引業は、営業利益率・労働生産性のいずれも上位となりました。売上高に対して利益を残しやすく、かつ従業員1人当たりの付加価値創出力も高い業種として表れています。 一方、医薬品は営業利益率では3位ですが、労働生産性では27位となりました。また、電気機器は営業利益率では9位ですが、労働生産性では25位となっています。 このように、営業利益率が高い業種であっても、労働生産性が同じように上位になるとは限りません。営業利益率は「売上高に対する利益の残りやすさ」を示し、労働生産性は「従業員1人当たりの付加価値創出力」を示します。 そのため、営業利益率を見る際には、補足指標として労働生産性をあわせて確認することで、業種ごとの収益性と付加価値創出力をより多面的に把握できると考えられます。 労働生産性トップの㈱INPEXは鉱業平均の約1.9倍 次に、個別企業の事例として、今回の集計で労働生産性が最も大きかった㈱INPEXを確認します。 ㈱INPEXは、東証業種分類では鉱業に属しています。同社の数値を鉱業平均と比較すると、以下の通りです。 項目 鉱業平均 ㈱INPEX 比較 売上高[百万円] 1,093,403 2,095,451 約1.9倍 営業利益[百万円] 536,968 1,063,342 約2.0倍 売上高営業利益率[%] 49.11 50.74 +1.63ポイント 労働生産性[円] 168,247,179 317,197,459 約1.9倍 ㈱INPEXの労働生産性は317,197,459円で、鉱業平均の168,247,179円に対して約1.9倍の水準となりました。また、売上高営業利益率も50.74%と、鉱業平均の49.11%を1.63ポイント上回っています。 この結果から、㈱INPEXは所属業種である鉱業の中でも、売上規模、営業利益規模、営業利益率、労働生産性のいずれも大きい水準にあることが確認できます。 鉱業は、資源開発や生産設備、権益、国際的な資源価格などの影響を受けやすい業種と考えられます。㈱INPEXについては、売上高・営業利益ともに鉱業平均を大きく上回っており、粗付加価値を従業員数の2期平均で割った労働生産性も高い水準に表れています。 このように、㈱INPEXの事例では、営業利益率の高さと労働生産性の高さが同じ方向に表れており、売上に対する利益の残りやすさと、従業員1人当たりの付加価値創出力の双方が大きい水準にあると推察されます。 ㈱メタプラネットは営業利益率70.60%でも労働生産性はマイナス値 次に、今回の集計で労働生産性が最も小さい値となった㈱メタプラネットを確認します。 ㈱メタプラネットは、東証業種分類では卸売業に属しています。同社の数値を卸売業平均と比較すると、以下の通りです。 項目 卸売業平均 ㈱メタプラネット 比較 売上高[百万円] 132,803 8,905 卸売業平均の約6.7% 営業利益[百万円] 7,111 6,287 卸売業平均の約88.4% 売上高営業利益率[%] 5.35 70.60 +65.25ポイント 労働生産性[円] ▲185,484,645 ▲3,639,961,539 マイナス方向に大きい値 ㈱メタプラネットは、売上高が8,905百万円で、卸売業平均の132,803百万円に対して約6.7%の水準です。一方、営業利益は6,287百万円で、卸売業平均の7,111百万円に近い水準となっています。 そのため、売上高営業利益率は70.60%と、卸売業平均の5.35%を大きく上回る結果となりました。 一方、労働生産性は▲3,639,961,539円となり、卸売業平均の▲185,484,645円と比較しても、マイナス方向に大きい値となっています。 この結果は、営業利益率が高い企業であっても、労働生産性が同じ方向に表れるとは限らないことを示す事例といえます。 特に、㈱メタプラネットのように、営業利益率が非常に大きい一方で労働生産性がマイナスとなっている企業では、営業利益だけでなく、粗付加価値の構成や従業員数との関係を確認する必要があります。 この事例からも、営業利益率のみでは、粗付加価値ベースの付加価値創出力を十分に説明できない可能性があると考えられます。 総論|営業利益率と労働生産性を組み合わせることで、収益性と付加価値創出力を多面的に把握 本記事では、12月決算の上場企業(連結企業)を対象に、業種別営業利益率ランキングを確認したうえで、補足指標として労働生産性を用いた分析を行いました。 業種平均で見ると、売上高営業利益率は鉱業が49.11%で最も大きく、次いで証券、商品先物取引業が42.63%、医薬品が24.07%となりました。 一方、労働生産性では、鉱業が168,247,179円で最も大きく、次いで証券、商品先物取引業が64,347,017円、不動産業が37,343,873円となりました。 鉱業と証券、商品先物取引業は、営業利益率と労働生産性の双方で上位に位置しており、収益性と付加価値創出力の両面で高い水準が確認できます。一方、医薬品や電気機器のように、営業利益率では上位に入っていても、労働生産性では順位が異なる業種も見られました。 営業利益率は「売上高に対する利益の残りやすさ」、労働生産性は「従業員1人当たりの付加価値創出力」を示します。個別企業分析で示したように両者を組み合わせて確認することで、企業や業種の収益性と生産性をより多面的に把握できると考えられます。 企業情報データベースeolで実現する効率的な企業分析 本記事の分析に使用した営業利益率ランキングの一部を下記よりダウンロードいただけます。 当社が提供する企業情報データベースeolでは財務諸表の数値データを取得するだけでなく、提出された複数企業の開示書類を効率的に閲覧する機能などを用意しています。企業の戦略を適切に分析するには、定性情報からの分析も不可欠と考えられます。 また、人的資本パッケージでは、有価証券報告書の企業情報(数値データ等)、人的資本に関するデータと「しょくばらぼ」のデータを一覧化しており、調査や分析に活用していただくことが可能です。 本記事以外のデータが必要な場合や、ご興味がございましたら、お問い合わせフォームより、お気軽にお問い合わせください。 データについて ※本記事は、企業情報データベース「eol」および人的資本パッケージより抽出した連結実績データを基に作成しています。 ※本記事で使用しているデータは当社独自の基準で算出しているため、各社の公表データと異なる場合があります。 投資判断に関する注意事項 ※本記事は、企業情報データベースeolに収録されているデータに基づく情報提供を目的としたものであり、特定の有価証券等の取引を推奨し、または勧誘するものではありません。投資判断は、必ずご自身の責任において行っていただくようお願いいたします。また、本記事に記載されている情報は、その正確性、完全性を保証するものではなく、投資の結果について当社は一切の責任を負いません。
-
2026.5.26 DL資料【2026年5月】売上高ランキング・当期純利益ランキング比較|営業CFで見る成長企業の特徴
当社が保有する企業情報データベースeolより、2026年3月期決算の上場企業を対象に、決算短信に記載された連結実績における売上高、親会社株主に帰属する当期純利益、営業キャッシュ・フローを抽出し、ランキング表としてまとめたものです。 売上高は企業の事業規模を示す代表的な指標です。一方、当期純利益は、売上から各種費用、税金、営業外損益、特別損益などを反映した最終的な利益を示します。さらに、営業キャッシュ・フロー(以下、営業CF)を確認することで、利益が営業活動による現金創出を伴っているかを補足的に見ることができます。 本記事では、売上高が大きい企業群と、当期純利益が大きい企業群を比較し、どちらに成長企業としての特徴がより表れているかを、売上高成長率、当期純利益成長率、営業CFの観点から考察します。 なお、本記事では、以下の3点を満たす企業を「成長企業としての特徴が相対的に強い企業」として整理します。 1.売上高成長率がプラス 2.当期純利益成長率がプラス 3.営業CFがプラス 売上高トップはトヨタ自動車50兆6,850億円、営業CFは9社がプラス 売上高ランキングでは、トヨタ自動車㈱が50兆6,850億円で首位となりました。2位は本田技研工業㈱の21兆7,966億円、3位は三菱商事㈱の18兆9,160億円です。 売上高トップ10には、輸送用機器が3社、卸売業が3社含まれており、グローバルな販売網や大規模な取引基盤を持つ企業が上位に並ぶ結果となりました。 順位 企業名 業種 売上高 親会社株主に帰属する当期純利益 営業CF 売上高成長率 当期純利益成長率 1 トヨタ自動車㈱ 輸送用機器 50兆6,850億円 3兆8,481億円 5兆4,729億円 5.51% ▲19.25% 2 本田技研工業㈱ 輸送用機器 21兆7,966億円 ▲4,239億円 1兆1,353億円 0.49% -- 3 三菱商事㈱ 卸売業 18兆9,160億円 8,005億円 1兆4,900億円 1.60% ▲15.81% 4 伊藤忠商事㈱ 卸売業 14兆8,231億円 9,003億円 1兆1,318億円 0.67% 2.27% 5 ㈱三菱UFJフィナンシャル・グループ 銀行業 14兆6,208億円 2兆4,272億円 ▲23兆644億円 7.27% 30.29% 6 NTT㈱ 情報・通信業 14兆4,091億円 1兆370億円 1兆4,852億円 5.14% 3.70% 7 三井物産㈱ 卸売業 13兆9,952億円 8,340億円 9,529億円 ▲4.56% ▲7.38% 8 ソニーグループ㈱ 電気機器 12兆4,796億円 1兆309億円 1兆9,456億円 3.69% ▲3.42% 9 日産自動車㈱ 輸送用機器 12兆79億円 ▲5,331億円 7,947億円 ▲4.95% -- 10 ENEOSホールディングス㈱ 石油・石炭製品 11兆7,655億円 2,587億円 6,200億円 ▲4.73% 14.44% ※金額は百万円単位の元データを億円単位に換算し、四捨五入しています。 ※「▲」はマイナスを示します。 売上高トップ10の売上高合計は、約185兆4,988億円です。売上高成長率がプラスとなった企業は10社中7社、当期純利益成長率がプラスとなった企業は、算出可能な8社中4社となりました。 営業CFを見ると、10社中9社がプラスです。特にトヨタ自動車㈱は5兆4,729億円、ソニーグループ㈱は1兆9,456億円、NTT㈱は1兆4,852億円の営業CFを計上しており、大規模な売上高に加えて、営業活動からの現金創出も確認できます。 一方、㈱三菱UFJフィナンシャル・グループの営業CFは▲23兆644億円となっています。銀行業の営業CFは、貸出金、預金、有価証券取引など、銀行業特有の資金移動の影響を受けやすいため、製造業や卸売業などの一般事業会社と単純比較する際には留意が必要です。 銀行業である同社を除いた売上高トップ9社の営業CF合計は、約15兆284億円となります。この点から、売上高トップ企業群は、事業規模の大きさに加え、多くの企業で営業活動による現金創出が確認できる企業群と考えられます。 当期純利益トップはソフトバンクグループ5兆23億円、銀行業3社・情報通信業2社が上位に 当期純利益ランキングでは、ソフトバンクグループ㈱が5兆23億円で首位となりました。2位はトヨタ自動車㈱の3兆8,481億円、3位は㈱三菱UFJフィナンシャル・グループの2兆4,272億円です。 当期純利益トップ10には、銀行業が3社、情報・通信業が2社、卸売業が2社含まれており、売上高ランキングとは異なる業種構成となりました。売上高ランキングでは輸送用機器や卸売業など、取扱高や販売規模が大きくなりやすい業種が目立つ一方、当期純利益ランキングでは、金融・通信・電機・総合商社など、利益額の大きい企業群が上位に並んでいます。 順位 企業名 業種 売上高 親会社株主に帰属する当期純利益 営業CF 売上高成長率 当期純利益成長率 1 ソフトバンクグループ㈱ 情報・通信業 7兆7,987億円 5兆23億円 ▲4,288億円 7.12% 333.72% 2 トヨタ自動車㈱ 輸送用機器 50兆6,850億円 3兆8,481億円 5兆4,729億円 5.51% ▲19.25% 3 ㈱三菱UFJフィナンシャル・グループ 銀行業 14兆6,208億円 2兆4,272億円 ▲23兆644億円 7.27% 30.29% 4 ㈱三井住友フィナンシャルグループ 銀行業 10兆7,909億円 1兆5,830億円 ▲10兆2,831億円 6.05% 34.37% 5 ㈱みずほフィナンシャルグループ 銀行業 9兆854億円 1兆2,486億円 ▲4兆8,385億円 0.61% 41.01% 6 NTT㈱ 情報・通信業 14兆4,091億円 1兆370億円 1兆4,852億円 5.14% 3.70% 7 ソニーグループ㈱ 電気機器 12兆4,796億円 1兆309億円 1兆9,456億円 3.69% ▲3.42% 8 東京海上ホールディングス㈱ 保険業 8兆8,723億円 9,804億円 5,843億円 3.96% ▲7.10% 9 伊藤忠商事㈱ 卸売業 14兆8,231億円 9,003億円 1兆1,318億円 0.67% 2.27% 10 三井物産㈱ 卸売業 13兆9,952億円 8,340億円 9,529億円 ▲4.56% ▲7.38% ※金額は百万円単位の元データを億円単位に換算し、四捨五入しています。 ※「▲」はマイナスを示します。 当期純利益トップ10の当期純利益合計は、約18兆8,918億円となりました。売上高トップ10の当期純利益合計である約10兆1,797億円と比較すると、利益額の面では当期純利益トップ10が大きく上回っています。 また、当期純利益トップ10では、売上高成長率がプラスとなった企業が9社、当期純利益成長率がプラスとなった企業が6社、売上高と当期純利益の双方がプラス成長となった企業が6社となりました。利益額の大きさに加えて、売上・利益の成長を同時に確認できる企業が一定数含まれている点が特徴です。 営業CFを見ると、当期純利益トップ10では10社中6社がプラスとなりました。一方、ソフトバンクグループ㈱および銀行業3社は営業CFがマイナスとなっています。特に銀行業の営業CFは、貸出金、預金、有価証券取引など金融業特有の資金移動の影響を受けやすいため、一般事業会社と単純比較する際には留意が必要です。 成長企業比較では、当期純利益トップ10が売上・利益成長で特徴、営業CFでは売上高トップ10に安定感 売上高トップ10と当期純利益トップ10を企業群として比較すると、それぞれ異なる特徴が見られます。 比較項目 売上高トップ10 当期純利益トップ10 売上高合計 約185兆4,988億円 約157兆5,601億円 当期純利益合計 約10兆1,797億円 約18兆8,918億円 営業CF合計 約▲8兆360億円 約▲27兆422億円 営業CF合計(銀行業除く) 約15兆284億円 約11兆1,439億円 平均売上高成長率 1.0% 3.5% 売上高成長率がプラスの企業数 7社 9社 当期純利益成長率がプラスの企業数 4社(算出可能8社中) 6社 売上高・当期純利益ともに成長した企業数 3社 6社 売上高成長率・当期純利益成長率・営業CFがすべてプラスの企業数 2社 2社 売上高トップ10は、売上高合計が約185兆4,988億円と非常に大きく、事業規模の大きさが特徴として表れています。また、銀行業である㈱三菱UFJフィナンシャル・グループを除く9社すべてで営業CFがプラスとなっており、多くの企業で営業活動による現金創出が確認できます。 一方、当期純利益トップ10は、当期純利益合計が約18兆8,918億円となり、売上高トップ10を大きく上回っています。さらに、売上高成長率がプラスの企業が9社、当期純利益成長率がプラスの企業が6社となっており、売上・利益成長の観点では、当期純利益トップ10の方が成長企業群としての特徴を相対的に強く示していると推察されます。 ただし、営業CF合計では、当期純利益トップ10は約▲27兆422億円となりました。これは、当期純利益トップ10に銀行業3社が含まれており、金融業特有の資金移動が営業CFに大きく影響しているためと考えられます。銀行業3社を除いた営業CF合計では約11兆1,439億円となり、一般事業会社を中心に見ると営業活動による現金創出も確認できます。 当期純利益トップ10は売上・利益成長で特徴、営業CFでは売上高トップ10の現金創出も確認 売上高ランキングと当期純利益ランキングを比較すると、売上高トップ10は「事業規模の大きさ」、当期純利益トップ10は「最終的な利益額の大きさ」が特徴として見られます。さらに営業キャッシュ・フロー、(以下営業CF)を加えることで、売上や利益が営業活動による現金創出を伴っているかを補足的に確認できます。 営業CFを見ると、売上高トップ10では10社中9社、当期純利益トップ10では10社中6社がプラスとなりました。当期純利益トップ10では、ソフトバンクグループ㈱のように当期純利益が大きい一方で営業CFがマイナスとなる企業もあり、当期純利益と営業CFの動きが必ずしも一致しないことが確認できます。また、銀行業の営業CFは、貸出金、預金、有価証券取引など金融業特有の資金移動の影響を受けやすいため、一般事業会社とは分けて確認することが望ましいと考えられます。 今回のデータでは、売上高トップ10は「規模」と「現金創出」、当期純利益トップ10は「利益額」と「売上・利益成長」という特徴が見られました。なお、売上高成長率・当期純利益成長率・営業CFのすべてがプラスとなった企業は、両ランキングとも2社であり、NTT㈱と伊藤忠商事㈱が該当します。 企業の成長性を確認する際には、売上高や当期純利益の絶対額だけでなく、売上高成長率、当期純利益成長率、営業CFを組み合わせて見ることが有用です。売上高は「規模」、当期純利益は「最終的な利益額」、営業CFは「営業活動による現金創出」を示すため、3つの指標を組み合わせることで、企業の特徴をより立体的に把握できます。 企業情報データベースeolで実現する効率的な企業分析 本記事の分析に使用した売上高、当期純利益ランキングの一部を下記よりダウンロードいただけます。 当社が提供する企業情報データベースeolでは、財務諸表の数値データを取得するだけでなく、提出された複数企業の財務データに加え、業種、上場市場、非財務情報などを横断的に取得できます。上場企業の成長性、収益構造、現金創出力を比較する際の基礎データとしてご活用いただけます。 本記事以外のデータが必要な場合や、ご興味がございましたら、お問い合わせフォームより、お気軽にお問い合わせください。 データについて ※本記事は、企業情報データベース「eol」より抽出した連結実績データを基に作成しています。 ※売上高は「連結実績-売上高」、当期純利益は「連結実績-親会社株主に帰属する当期純利益」を使用しています。 ※営業CFは「営業キャッシュ・フロー」を使用しています。 ※金額は百万円単位の元データを億円単位に換算し、億円未満を四捨五入しています。 ※「--」は、前期が赤字である場合など、成長率の比較に適さないデータを示しています。 ※銀行業など金融業の営業CFは、一般事業会社と性質が異なるため、単純比較には留意が必要です。 投資判断に関する注意事項 ※本記事は、企業情報データベースeolに収録されているデータに基づく情報提供を目的としたものであり、特定の有価証券等の取引を推奨し、または勧誘するものではありません。投資判断は、必ずご自身の責任において行っていただくようお願いいたします。また、本記事に記載されている情報は、その正確性、完全性を保証するものではなく、投資の結果について当社は一切の責任を負いません。
-
2026.4.24 DL資料【2026年4月】業種別 ROEランキング|資本効率と財務健全性の相関から読み解く「経営タイプ」
当社が保有する企業情報データベースeolより、全上場企業(連結財務諸表ベース)の当期純利益、自己資本、総資産を用いて、ROE(自己資本利益率)を中心に企業の資本効率と安全性を読み解いてみました。 業種別の傾向に加え、高ROEの背景にある負債活用の見方なども整理しています。 ROE(自己資本利益率)の判定基準と資本効率を客観的に評価するための補足指標の役割 2026年現在、日本市場で注目されている財務指標の1つは「ROE(自己資本利益率)」です。東京証券取引所による「資本コストや株価を意識した経営」の要請以降、企業には単なる利益の額ではなく、投資家から預かった資本をいかに効率よく回したかという「資本効率」が問われています。 ROE(自己資本利益率) 指標の説明 計算式 単位 株主から預かったお金(自己資本)を使って、 企業がどれだけ効率的に利益(当期純利益)を稼げたかを示す指標 当期純利益 ÷ 自己資本 × 100 % 一般的には「8%」が優良企業の最低ライン(伊藤レポート基準)とされ、「10%〜15%」を超えるとグローバル水準でも極めて効率的な経営を行っていると判定されています。 しかし、ROEは「借金を増やして自己資本(分母)を小さく見せる」ことでも、表面上の数値を上げられてしまうことから、ROEの数値が高いからといって、無条件に優良企業と判断するのは危険です。そこで、ROEの「中身(質)」を正しく評価するために不可欠なのが、ROE分析時の補足指標と言われている「自己資本比率」です。 自己資本比率 指標の説明 計算式 単位 会社の全資本(総資産)のうち、銀行からの借入金など ではない「返済不要の自己資本(純資産)」が占める割合を示す指標 自己資本 ÷ 総資産 × 100 % この指標は、総資産のうち「返済不要な自分の資金」が占める割合を示します。 ROE(効率性)が高くても、自己資本比率(安全性)が極端に低い場合、それは「過大な借金によって無理に効率を上げている状態」かもしれません。 この二つの指標を組み合わせることで、その企業の収益が「本業の稼ぐ力によるものか(良質なROE)」、あるいは「財務リスクを負ったレバレッジによるものか(注意すべきROE)」を判別できるようになります。 業種別の収益性トレンドと構造的要因|高ROEを導く「資産を抑えた経営」の優位性 上場全33業種の連結ベース(赤字企業除外)におけるROE平均は10.3%となりました。この結果は、日本企業がグローバル水準の高いハードルを安定的に超え始めていることを示しています。ROEランキングの上位業種は下記の業種です。 上位2業種(サービス、情報・通信)に共通するのは、大規模な工場や店舗といった物理的な資産を最小限に抑える「資産を抑えた経営」という構造的な強みです。個別企業では、サービス業の㈱リログループ(ROE 63.5%)や、第5位の小売業(ROE 11.3%)に属する㈱ZOZO(ROE 45.9%)が代表例です。これらの企業は負債への依存度を低く保ちながら高収益を創出しており、金利上昇による支払利息増のリスクを抑えた、極めて強固な収益構造を維持していると推察されます。 一方、第3位の海運業は、保有資産は大きいものの、近年の世界的な運賃高騰という外部要因が利益を急拡大させ、資本効率を一時的に大きく押し上げたものと考えられます。 財務構成から見るROEの持続性|市場環境の変化に即した負債活用と収益リスクの検証 ROEを主役として見る際、決して見落としてはいけないのが「負債の活用度合い」です。ROEは、本業の儲けやすさだけでなく、「どれだけ借金(負債)を利用して効率を上げたか」という要素が含まれるからです。 「良いROE」:収益性主導型 本業の利益率が高く、無駄な資産を持たないことでROEが向上しているケース。自己資本比率も一定水準(40%以上など)を維持しており、金利上昇にも強い。 例:サービス業(ROE 14.0% / 自己資本比率 52.6%)や情報・通信業(ROE 13.8% / 自己資本比率 59.1%)。 「注意すべきROE」:財務レバレッジ主導型 本業の利益率は平凡でも、多額の借入によって自己資本を圧縮し、見かけ上のROEを上げているケース。 例:不動産業(ROE 12.9% / 自己資本比率 38.5%)や卸売業(ROE 8.9% / 自己資本比率 32.3%)。 特に、不動産業(ROE 12.9% / 自己資本比率 38.5%)のように、負債を成長の武器とする戦略は、低金利下では非常に有効な手法でした。しかし、金利がある世界に戻った現在では、利払い負担が直接的に利益を削り、ROEを圧迫するリスクとなります。 ROEの数値が高く、一見すると優良企業に見える場合でも、自己資本比率という「盾の厚さ」を併せて確認し、その効率性が「低金利という外部環境に依存したものではないか」を見極めることが、現代の企業分析には不可欠です。 ROEの「質」と「安全性」から読み解く4つの経営タイプ 本分析の主役であるROE(平均10.3%)と、補足指標である自己資本比率(平均53.0%)の平均値を基準に各業種を分析すると、各業種が「収益効率」と「金利耐性」のどちらのタイプに寄っているかが見えてきます。 【収益性・健全性高水準】効率的経営タイプ ROE 10.3%超 かつ 自己資本比率 53.0%超という、全業種平均をいずれも超える領域に位置し、強力な稼ぐ力と金利上昇に揺るがない財務基盤を両立した、理想的な資本効率を誇るタイプです。 代表業種:情報・通信業(ROE 13.8% / 比率 59.1%) 個別事例:㈱オービック(情報・通信業 / ROE 14.8% / 自己資本比率 91.0%) このタイプを象徴する情報・通信業の中でも、独自のソフトウェア資産を持つ企業は、負債に頼らず高い資本効率を実現しています。金利上昇局面においても利払い負担増のリスクがほぼなく、自前で次なる成長投資を行える「勝ち残り」の筆頭とも言えるポジションです。 【収益性重視・積極投資】負債活用型タイプ ROE 10.3%超 という高い資本効率を維持しつつ、自己資本比率は平均の 53.0%未満 という領域に位置し、負債を成長のテコ(レバレッジ)として活用することで自己資本利益率を引き上げているタイプです。 代表業種:サービス業(14.0% / 52.6%)、海運業(13.7% / 48.5%) 個別事例: ㈱リログループ(サービス業 / ROE 63.5% / 自己資本比率 22.1%) 業種平均(サービス業)は全業種平均をわずかに下回る位置にありますが、個別企業ではさらに積極的に負債を活用し、高いROEを叩き出すケースが目立ちます。金利コスト増を上回る事業成長を継続できるかが分析の焦点に置かれます。 【健全性重視・中長期投資】内部留保蓄積タイプ 自己資本比率 53.0%超 という高い安全性を保持する一方で、ROEは平均の 10.3%未満 という領域に位置し、現在は収益効率よりも将来の投資や不況への耐性を優先して資本を蓄積しているタイプです。 代表業種:精密機器(8.8% / 62.1%)、医薬品(8.4% / 66.4%) 個別事例:テルモ㈱(精密機器 / ROE 8.9% / 自己資本比率 67.5%) 長期的な研究開発や設備投資が必要な業界に多く見られます。短期的なROEは平均を下回りますが、強固な財務基盤(盾)を持つため、金利上昇や景気後退局面でも事業を継続し、次世代のイノベーションを狙える持久力が特徴です。 【社会基盤・安定収益】資本集約型タイプ ROE 10.3%未満 かつ 自己資本比率 53.0%未満 という、全業種平均をいずれも下回る領域に位置し、巨額の設備資産を前提としながら、資本効率の追求以上に社会インフラとしての継続性が重視されるタイプです。 代表業種:電気・ガス業(10.2% / 38.4%)、陸運業(7.6% / 36.8%) 個別事例:東日本旅客鉄道㈱(ROE 6.5% / 比率 30.2%) 設備投資のための多額の借入を抱えることが前提の構造です。数値の低さを単純に批判するのではなく、インフラとしての安定したキャッシュフローやコスト管理能力が評価の主眼に置かれます。 業界標準値を「モノサシ」とする多角的な企業分析の重要性 今回の分析を通じて最も強調したいのは、財務数値は、業界の標準値と比較して初めて、その真のカラーが見えてくるということです。 例えば、自己資本比率が30%台という数字一つをとっても、それが不動産業であれば「業界標準に沿った適切なリスクテイク」と評価されますが、精密機器業界においては「業界平均を大きく下回る深刻な事態」と解釈されるかもしれません。同様に、ROE 10%という数値も、アセットライトなIT業界では「さらなる向上が期待される水準」であり、インフラ業界であれば「極めて優秀な効率性」と捉えることができます。 数字は単なる結果ではなく、その企業が選んだ「戦略の履歴書」です。 就活生や転職希望者にとっては、志望企業の言葉やイメージの裏側にある「稼ぎ方の本質」を見極める武器として、ビジネスマンにとっては、金利上昇という新たな荒波の中で「本当に勝ち抜く企業」を選別するための判断基準として、このROEを主軸とした二軸分析の視点を、ぜひ日々の企業・業界分析に活用してください。客観的なデータに基づいた「精緻なモノサシ」を持つことが、不透明な時代における最大の防御であり、最大の攻撃となるはずです。 企業情報データベースeolで実現する効率的な企業分析 本記事の分析に使用した業種別ROEランキングの一部を下記よりダウンロードいただけます。このデータには、「全業種の平均比率やROE(自己資本利益率)TOP30社」が含まれており、企業分析や業界動向の把握にお役立ていただけます。 当社が提供する企業情報データベースeolでは、財務諸表の数値データを取得するだけでなく、提出された複数企業の開示書類を効率的に閲覧する機能などを用意しています。企業の戦略を適切に分析するには、定性情報からの分析も不可欠と考えられます。 本記事以外のデータが必要な場合や、ご興味がございましたら、お問い合わせフォームより、お気軽にお問い合わせください。 ※ 社数算出について 本記事の対象は全上場企業のうち、当期純利益、自己資本、総資産(いずれも連結)が取得可能な企業で算出しています。 ※ データについて 本記事で使用しているデータは当社独自の基準で算出しているため、各社の公表データと異なる場合があります。 ※ 投資判断に関する注意事項 本記事は、企業情報データベースeolに収録されているデータに基づく情報提供を目的としたものであり、特定の有価証券等の取引を推奨し、または勧誘するものではありません。投資判断は、必ずご自身の責任において行っていただくようお願いいたします。また、本記事に記載されている情報は、その正確性、完全性を保証するものではなく、投資の結果について当社は一切の責任を負いません。
資本市場戦略
公社債・増資・自社株買いなど、最新の資本政策トレンドを独自に調査・分析した発行市場レポートを公開しています。 月次版に加え半期版・通年版も揃えておりますので、発行市場の動向把握やIR戦略の参考資料として、ぜひご活用ください。
-
NEW 2026.6.26 DL資料証券業発行国内公募SBの近況【2026年6月集計版】
2026年3月決算において、上場証券業10社が純利益を前年比で倍増させるなど、証券業界は好調な業績が続いています。一方、資金調達の面では、これら10社のうち国内公募SBを活用した企業は6社となりました。本稿では、証券業発行国内公募SBの発行額・残存額を劣後債、個人投資家向け債、ESG債の観点から分析します。 また、当社が提供するファイナンスデータベースサービス INDB Funding Eyeから取得した直近3年度分のデータも掲載しておりますので、あわせてご利用ください。 劣後債:残存額は2030年度以降90.00%超え 発行額、直近10年度の推移は、2019年度に52.08%(1,500億円)、コロナ禍はなかったものの、2025年度には40.08%(3,700億円)となっています。これは、自己資本比率などの財務健全性指標の改善につながることを示唆している場合もあります。 一方、残存額は、2027年度に44.73%(7.950億円)ですが、2034年度には劣後債のみとなっています。 個人投資家向け債:発行額は、2025年度には最多の52.34%、残存額は2027年度に39.32%を占めていますが以降徐々に減少 発行額、直近10年度の推移は、上昇下降を繰り返すも2022年度に29.93%(1,070億円)と上がり2025年度に最多割合52.34%(4,832億円)、となりました。今後の発行動向に注目です。 一方、残存額は、2027年度に39.32%(6,990億円)でしたが、その後減少を続け2036年度には個人投資家向け債がなくなります。 ESG債:グリーンボンドのみ、発行は2018年度および2023年度、残存額は2027年度以降一定額 発行額、直近10年度の推移は、2018年度および2023年度に100億円のみとなりました。 一方、残存額は、2027年度から2035年度まで500億円、2036年度にはESG債がなくなります。これは、ESG債が調達した資金の使い道が環境・社会・サステナビリティ関連のプロジェクトに限られ、資金繰りの柔軟性を下げることに起因している可能性があります。 当社では、国内公募SB情報は1978年以降発行分をデータベース化し、個別ディールも時系列データも簡単にご利用いただけるよう提供しております。 (今回紹介したデータの一部は下記よりダウンロードいただけます。) INDB Funding Eyeにご興味をお持ちの方へ INDB Funding Eyeの詳細な機能や具体的な導入事例、無料モニターのお申し込みや詳しい資料請求については、お問い合わせフォームより、お気軽にご連絡ください。 データ分析業務の効率化と高度化を、『INDB Funding Eye』が強力にサポートいたします。
-
NEW 2026.6.9 DL資料発行市場レポート【特集版 2026年5月】自己株式の状況
今回は、「当社ファイナンス・データベースにおける自己株式の状況」に焦点を当てた特集です。主な内容は次のとおりです。 自己株枠設定 【2025年度の自己株枠設定金額は22兆4,163億円となり、初めて20兆円の大台を突破】 業種別自己株枠設定金額は製造業が、10兆円を超え11兆5,623億円で1位となりました。また、コロナ前後では全業種がプラス、鉱業は16672%増(22億円:3,717億円)となりました。一方、今年度と昨年度の増減では業種によりバラツキがありますが、最も増えた農林業は333%増となりました。 自己株取得 【2025年度の取得実施額は22兆1,056億円となり、初めて20兆円の大台を突破】 業種別自己株設定金額は製造業が、10兆円を超え11兆4,688億円で1位となりました。また、コロナ前後では全業種がプラス、鉱業は16908%増(21億円:3,573億円)となりました。一方、今年度と昨年度の増減では業種によりバラツキがありますが、最も増えた不動産業は149%増となりました。 自己株取得:取得方法 【2025年度は市場買付が、初めて15兆円を超え17兆3,017億円、企業数、案件数も過去最高値】 過去最高であった公開買付は4兆7,636億円、昨年度からは減っています。 PBR1倍割れ企業の取得実施状況 【PBR1倍割れ企業は、サービス業が33社、卸売業が31社】 2024年度 PBR1倍割れ企業における2025年度の自己株取得実施状況です。サービス業33社のうち4社66億円、卸売業31社のうち10社782億円となりました。 添付の発行市場レポートでは、配当金もわかります。
-
2026.5.20 DL資料銀行業発行国内公募SBの近況【2026年5月集計版】
2026年3月決算において、上場銀行業4社が純利益を前年比で倍増させるなど、銀行業界は好調な業績が続いています。一方、資金調達の面では、これら4社のうち国内公募SBを活用した企業は1社にとどまりました。本稿では、銀行業発行国内公募SBの発行額・残存額を①劣後債、②個人投資家向け債、③ESG債の観点から分析します。 また、当社が提供するファイナンスデータベースサービス INDB Funding Eyeから取得した直近3年度分のデータも掲載しておりますので、あわせてご利用ください。 ①劣後債:発行額は常に50%以上を占め2025年度に86.23%、残存額は2036年度には100.00%に 発行額、直近10年度の推移は、2015年度に92.55%(1兆1,800億円)、2021年度に58.82%(3,000億円)とコロナ禍の影響もあり下がるも、常に50%以上を占め2025年度には86.23%(1兆9,160億円)と回復しています。これは、自己資本規制対応の需要が継続していることを示唆しています。 一方、残存額は、2027年度に89.73%(10兆3,844億円)ですが、2036年度には劣後債のみとなっています。 ②個人投資家向け債:発行額は常に50%以下で、2022年度には最多の42.69%、残存額は2030年度に25.63%を占めていますが2035年度にはなくなる 発行額、直近10年度の推移は、2018年度に7.25%(800億円)と下がるも2022年度に最多割合42.69%(6,900億円)、その後、上がったり下がったりがあり2025年度には21.02%(4,670億円)となりました。今後の発行動向に注目です。 一方、残存額は、2027年度に24.49%(2兆8,340億円)、2030年度に25.63%(2兆6,220億円)と増えましたが、年限が短いこともあり、2035年度には個人投資家向け債がなくなります。 ③ESG債:発行額は2020年度に最多の13.74%、残存額は2027年度に2.03%を占めるが2036年度になるとなくなる 発行額、直近10年度の推移は、2020年度にサステナビリティボンドが急増し最多割合13.74%(1,700億円)、その後、上がったり下がったりがあり2025年度には1.64%(365億円)となりました。 一方、残存額は、2027年度に2.03%(2,352億円)、徐々に下がり、2035年度にグリーンボンドのみとなり、2036年度にはESG債がなくなります。これは、金利メリットが得られない中で、高額な年次管理コスト(期中に支払がある各種手数料)を株主へ説明できない経済的合理性の欠如の可能性があります。 当社では、国内公募SB情報は1978年以降発行分をデータベース化し、個別ディールも時系列データも簡単にご利用いただけるよう提供しております。 (今回紹介したデータの一部は下記よりダウンロードいただけます。) 当社サービスに興味のある方へ INDB Funding Eyeにご興味をお持ちの方へ データ分析業務の効率化と高度化を、『INDB Funding Eye』が強力にサポートいたします。 INDB Funding Eyeの詳細な機能や具体的な導入事例、無料モニターのお申し込みや詳しい資料請求については、お問い合わせフォームより、お気軽にご連絡ください。
コラム
金融・経済の専門家が、当社データベースを駆使して独自の視点から経済動向をレポートします。 データに裏付けられた深い洞察を、投資判断や経営戦略立案のヒントとしてお役立てください。
-
2026.5.12米国・イスラエルとイランの交戦、原油価格高騰をどうみる
米国・イスラエルとイランの交戦激化が、世界経済に静かな衝撃を与えている。原油価格は高値圏で推移し、ホルムズ海峡封鎖リスクは供給不安を高めている。しかし、問題の本質は単なるエネルギー価格の動向にとどまらない。台湾・ASEAN諸国の脆弱な石油備蓄、グローバルサプライチェーンへの波及、そして30年続いたグローバル化経済の「転換点」まで及ぶ。今回の中東リスクが日本経済に何をもたらすのか、株式会社SBI証券 チーフストラテジスト・上席エコノミスト 佐治信行氏が多角的な視点で読み解く。 中東リスクの再燃と原油価格の急騰 ホルムズ海峡リスクと供給不安の高まり 米国・イスラエルとイランの戦闘激化を受け、中東情勢は緊張の高い状態が続いており、世界の原油価格は上昇圧力の強い状況にある。特に、原油の海上輸送の要衝である「ホルムズ海峡」を巡るリスクの高まりが主因となっている。ホルムズ海峡は世界の原油船積み量の約20%が通過する戦略的要衝であり、ここでの輸送停滞や封鎖リスクは供給不安を強めやすい。 ブレント・WTI原油の上昇と産油国インフラへの懸念 実際、紛争発生以降、国際的なベンチマークであるブレント原油およびWTI原油は上昇基調を強め、一時的に100ドル/バレルを上回る場面もみられた。その後も、中東情勢の不透明感を背景に高値圏での推移が続いている。また、戦闘の影響がイラン周辺にとどまらず、サウジアラビア、UAE、クウェート、カタールなど主要産油国やそのインフラへ波及する可能性が意識され、輸出能力そのものへの懸念が市場心理を一段と押し上げている。 インフレ圧力の再燃と金融政策への波及 一般に、原油価格の上昇は世界経済におけるインフレ圧力を高める要因となる。特に中東依存度の高いアジア諸国や日本経済にとっては、その影響が大きくなる可能性がある。 なお、エネルギー価格の上昇は、企業の生産コストや物流費を押し上げるだけでなく、電気・ガス料金やガソリン価格を通じて家計負担を直接的に増加させる。さらに、インフレ圧力の再燃は、FRBおよび日銀の金融政策運営にも影響を及ぼし得る。 では、今回の原油価格上昇は、日本経済にどのような具体的影響をもたらすのか。マクロ経済の観点から整理する必要がある。 エネルギー原単位から見る日本経済の耐性 原油原単位とは何か――経済の原油依存度を測る指標 日本経済に対する原油価格の影響を考えるうえで重要な指標の一つに「原油原単位」がある。原油原単位とは、GDPなど一定の経済規模を生み出すためにどれだけの原油を必要とするかを示す指標であり、いわば「経済の原油依存度」を表す。数値が高いほど、原油価格の変動が経済全体に与える影響は大きくなる(図表1)。 出典:一般財団法人日本エネルギー経済研究所「エネルギー経済統計要覧」を基に株式会社SBI証券作成 石油危機以降の構造変化――省エネ・サービス化による耐性向上 高度成長期の日本はエネルギー多消費型産業が中心で原油原単位が高かったが、1970年代の石油危機以降、省エネルギー技術の進展や産業構造のサービス化を背景に、長期的には低下傾向をたどってきた。すなわち、同じ1ドルの原油価格上昇であっても、過去と比較すれば経済全体への打撃は構造的に小さくなっている。この点からは、中東情勢の緊張が高まる局面においても、その経済的影響を過度に見積もる必要はないと考えられる。 日本の原油原単位は世界最高水準の効率性 具体的に、日本の原油原単位は主要国の中でも際立って低い水準にある。1980年は312gであったが、2000年には106gまで急低下し、2023年には82gと、世界平均の162gと比較して高い効率性を維持している。これは欧米の先進主要国にも当てはまることであり、50年前に経験した「スタグフレーション」への耐性は確実に高まってきていると言える。 アジア諸国の消費効率の相対的低さと原油備蓄量の少なさ 台湾・韓国・ASEAN諸国の原単位が示す脆弱性 そうした中で懸念されるのは、台湾や韓国の石油使用量の「原単位」の高さである。台湾は2023年時点で161gと、日本の約2倍に達している。改めてアジア諸国の石油使用量を原単位でみると、インドネシア、マレーシア、タイ、ベトナムといったASEAN諸国の消費効率の低さが浮き彫りとなる(図表2)。 しかも、これらの国々の石油備蓄量は、IEA(国際エネルギー機関)の基準である90日を下回っている国が多い。国内で一定のエネルギー自給が可能であることや、50年前の石油危機を経験していないことが、その背景にあると考えられる。 出典:IEA等より株式会社SBI証券作成 水平分業型サプライチェーンの安全保障リスク 今回の米国・イスラエルとイランとの交戦を通じて改めて認識されるのは、過去30年のグローバル化により水平分業化されたサプライチェーンが、安全保障上のリスクに著しく晒されているという点である。仮に台湾の石油備蓄が枯渇すれば、同国の産業活動は停止し、世界はハイエンド半導体の供給不足に直面する可能性がある。結果として、データセンターの稼働や都市・工場・オフィスの活動にも深刻な影響が及び得る。 また、マレーシアには半導体の重要な後工程が存在し、タイには日系自動車メーカーのサプライチェーンが構築されている。 原油価格の高騰は、日本のハイブリッド車需要を喚起し、日本のGDP押し上げ要因となる可能性もあるが、それはあくまで供給の安定が前提である。仮に原油価格が上昇する中で自動車輸出が困難化するような事態となれば、両者は貿易収支における重要項目であるだけに、その影響は相殺ではなく、むしろ大きな下押し圧力となり得る。 貿易収支の悪化は円安を誘発し、輸入物価の上昇に拍車をかける可能性がある。 グローバル化の転換点と企業価値評価の変容 今回のホルムズ海峡を巡る緊張の高まりは、30年続いたグローバル化経済の転換点を示唆するものとも解釈できる。企業価値の評価においても、これまでの「過剰なキャッシュ保有はネガティブ」との見方から、「サプライチェーン混乱に備えた一定のキャッシュ保有は必要」との認識への転換、さらには「垂直統合型モデルを維持してきた重厚長大型産業の再評価」といった論調への変化が進む可能性がある。 前回の石油危機が冷戦終結とグローバル化の始まりにつながったとすれば、今回はその逆、すなわちグローバル化の転換点の始まりである可能性も否定できない。 佐治 信行(さじ のぶゆき) Nobuyuki Saji SBI証券 経済企業調査部管掌執行役員 チーフストラテジスト・上席エコノミスト 専門分野は国内外マクロ経済(実物経済、金利・為替)。日経ヴェリタスアナリストランキング エコノミスト部門ではのべ16年にわたり第1位を獲得。 Institutional Investor 誌では17年連続。 1982年関西学院大学法学部政治学科卒業。同年、日興證券(株) (現、SMBC日興証券)入社。(株)日興リサーチセンターへ出向、証券調査部、事業調査部、経済調査部、投資戦略部。その後、1999年興銀証券(株)(現みずほ証券)、 2006年に三菱UFJ証券(株)(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)、2018年5月ニッセイアセットマネジメント、2024年9月株式会社SBI証券に入社。 Nobuyuki Saji, Chief Strategist and Economist Mr. Saji specializes in domestic and international macroeconomics (the real economy, interest rates, and foreign exchange rates). He has ranked No. 1 in the Economist category in the Nikkei Veritas analyst ranking for 16 years in total and has also been ranked in the Institutional Investor survey for 17 years in a row. Mr. Saji graduated from the Department of Political Science, School of Law and Politics, Kwansei Gakuin University in 1982, and joined Nikko Securities (currently SMBC Nikko Securities) in the same year. He was transferred to Nikko Research Center, where he worked in the Securities Research Department, Business Research Department, Economic Research Department, and Investment Strategy Department. Mr. Saji then joined IBJ Securities (currently Mizuho Securities) in 1999, Mitsubishi UFJ Securities (currently MUMSS) in 2006, and Nissay Asset Management in May 2018. He joined SBI SECURITIES in September 2024. ※このコラムに関連した経済データは、「経済統計データベース」INDB Accelで最新値の確認・時系列分析が可能です。 ▶ 無料トライアル(2週間)のお申し込み
-
2026.3.31税収弾性値からみた「責任ある積極財政」
選挙結果と「飲食料品消費税ゼロ」公約 政策内容と実施時期の不確実性 この2月の衆議院選挙で自由民主党が大勝し、議席の3分の2を獲得した。今回の選挙は「争点なき減税合戦」とも評されたが、勝者となった自民党は公約である「飲食料品消費税ゼロ%」を2年間の時限措置として実行する方針を掲げている。もっとも、同政策は野党を含めた国民会議で制度設計を議論した上で施行される見通しであり、実施時期や具体的な財源措置は依然として不透明である。 積極財政が招く市場リスク 国債・金利・円安への影響 こうした状況の下、金融市場では日本の財政悪化に対する懸念がくすぶる。減税政策が財政規律の後退と受け止められれば、国債需給の悪化観測を通じて長期金利に上昇圧力がかかる可能性がある。その影響は為替市場にも波及し、円安への警戒感を強めることになる。財政拡張と日銀の大規模緩和が併存する現在の政策枠組みのもとでは、国債発行増加が中央銀行のバランスシート(B/S)拡張につながりやすく、通貨供給の増加という経路を通じて円安圧力が強まる構造にあるのだ。 財政コストと効果の検証 消費押し上げ効果と試算(約10兆円の財源規模) 飲食料品の年間消費金額は61.4兆円(2024年、内閣府)である。現在の軽減税率8%を前提とすれば、当該分野の消費税収は約4.9兆円、概算で約5兆円となる。したがって、2年間実施した場合の必要財源は約10兆円規模に達する。一方、われわれの最小二乗法を使っての試算では、本措置による消費押し上げ効果は約0.33%にとどまる。家計の実質所得を一定程度下支えする効果は見込まれるものの、財政コストに比して成長押し上げ効果は限定的と評価せざるを得ない。 出典:内閣府「国民経済計算」 ※データはINDB Accelより取得 財源の現実性と短期対応 「埋蔵金」活用の可否と補正予算の未執行資金 政権は、飲食料品消費税ゼロ%の財源について「税外収入等から充当する」としている。この発言を踏まえれば、補正予算の使い残しや各種基金残高、いわゆる「埋蔵金」からの拠出が視野に入っている可能性が高い。我々の試算では、新型コロナ禍の補正予算での未執行資金は40兆円規模に及ぶ(内閣府「国民経済計算(ストック編)」より)。ただし、補正予算の編成過程において多額の使い残しが発生する構造や、基金の増設・積み増しの妥当性は別途検証されるべき論点である。それでも、一定規模の積極財政を数年間継続する前提に立てば、既存資金の活用を通じて直ちに財政規律を大きく毀損せずに運営する余地は存在する。 出典:財務省「租税及び印紙収入、収入額調」 ※データはINDB Accelより取得 税収弾性値が示す構造的課題 なぜ経済成長が税収増加に結びつかないのか しかし、「飲食料品消費税ゼロ%」のような大衆迎合的な政策を継続して、日本の財政、さらには通貨への信認を維持できるのであろうか。肝要なのは、先行する歳出増加や減税による歳入減少を、その後の経済成長による税収増加で取り返すことができるかどうかである。回収できなければ財政赤字の膨張が続き、国債増発が常態化する。現行の金融政策の枠組みが維持されれば、中央銀行のB/Sはさらに拡張し、通貨供給の増加を通じて通貨価値の下押し圧力が強まる。食料品やエネルギーなど生活必需品を輸入に依存する日本では、円安は生活費の不可逆的な上昇を招く可能性がある。 この財政の「回収力」を測る指標が税収弾性値である。税収弾性値とは、名目GDPの変動率に対する税収の変動率を示す指標であり、経済成長がどの程度税収増加に結びつくか、すなわち租税を通じた自律的な財政健全化メカニズムの強さを表す。過去30年、20年、10年、5年の各期間で計測すると(図表)、全体の税収弾性値は過去30年平均の2.85から直近5年平均では1.34へと低下している。 その主因は所得税と消費税の弾性値低下である。所得税については、非正規雇用の拡大や若年層の賃金上昇とシニア層の賃金伸び悩みが併存する中で、年功序列型の賃金カーブが平準化している。これにより、累進課税制度による税収の加速効果が働きにくくなっている。消費税については、高齢化に伴う限界消費性向の低下に加え、医療費や医薬品といった非課税支出のウエイト上昇、さらには軽減税率の導入という制度変更が弾性値を押し下げている。 一方、税収弾性値が相対的に低下していない項目は法人税である。約10年前に提示されたコーポレートガバナンス・コード以降、企業価値向上に対する投資家の圧力が強まり、事業再編や資本効率改善が進展した。結果として企業収益力が改善し、法人税収は景気拡大局面で伸びやすい構造となっている。ただし、国税収入の多くを所得税と消費税が担う現状では、全体としての税収弾性値は構造的に低下していると言わざるを得ない。 出典:財務省「租税及び印紙収入、収入額調」を用いて佐治氏作成 ※データはINDB Accelより取得 法人税の高い弾性値をいかに活用するか 成長誘発型施策による税収回帰メカニズム さらに、税収増加をインフレに依存する構造となれば、歳出も物価上昇に連動して増加するため、財政均衡化は容易ではない。重要なのは、実質的な成長を通じて税収基盤を拡大することである。 税収弾性値の観点からみた一つの示唆は、法人税収の弾性値の高さをどう活用するかである。政府の施策が単なる消費者向け給付にとどまらず、企業活動の活性化や事業再編を促すものであれば、税収回帰力は高まり得る。1978年の特定産業構造改善臨時措置法や1983年の産業構造転換円滑化臨時措置法は、石油危機後の産業構造調整を後押しし、電子・半導体関連、情報通信機器、産業用ロボットなどの分野への展開を促した。鉄鋼や重電、化学、造船といった基幹産業も高付加価値分野へと業容転換を進めた。 現在においても、防衛・宇宙など先端分野への戦略的支出が企業投資を直接誘発する形で設計されれば、高い法人税弾性値を通じて税収増加が期待できる。日本の政策における成功例は、「ばらまき型」よりも「誘発型」に多かったとの指摘もある。 「責任ある積極財政」とは、歳出規模そのものではなく、将来の税収回帰メカニズムを内包しているかどうかで評価されるべきであろう。市場が問うているのは、減税の是非ではなく、その後の成長と財政持続性の設計なのである。 佐治 信行(さじ のぶゆき) Nobuyuki Saji SBI証券 経済企業調査部管掌執行役員 チーフストラテジスト・上席エコノミスト 専門分野は国内外マクロ経済(実物経済、金利・為替)。日経ヴェリタスアナリストランキング エコノミスト部門ではのべ16年にわたり第1位を獲得。 Institutional Investor 誌では17年連続。 1982年関西学院大学法学部政治学科卒業。同年、日興證券(株) (現、SMBC日興証券)入社。(株)日興リサーチセンターへ出向、証券調査部、事業調査部、経済調査部、投資戦略部。その後、1999年興銀証券(株)(現みずほ証券)、 2006年に三菱UFJ証券(株)(現三菱UFJモルガン・スタンレー証券)、2018年5月ニッセイアセットマネジメント、2024年9月株式会社SBI証券に入社。 Nobuyuki Saji, Chief Strategist and Economist Mr. Saji specializes in domestic and international macroeconomics (the real economy, interest rates, and foreign exchange rates). He has ranked No. 1 in the Economist category in the Nikkei Veritas analyst ranking for 16 years in total and has also been ranked in the Institutional Investor survey for 17 years in a row. Mr. Saji graduated from the Department of Political Science, School of Law and Politics, Kwansei Gakuin University in 1982, and joined Nikko Securities (currently SMBC Nikko Securities) in the same year. He was transferred to Nikko Research Center, where he worked in the Securities Research Department, Business Research Department, Economic Research Department, and Investment Strategy Department. Mr. Saji then joined IBJ Securities (currently Mizuho Securities) in 1999, Mitsubishi UFJ Securities (currently MUMSS) in 2006, and Nissay Asset Management in May 2018. He joined SBI SECURITIES in September 2024. ※このコラムで引用した経済データは、「経済統計データベース」INDB Accelで最新値の確認・時系列分析が可能です。 ▶ 無料トライアル(2週間)のお申し込み
サンプルデータ
企業情報データベース「eol」で提供しているテーマ検索・レポート機能のサンプルデータを公開しています。 コーポレート・ガバナンスやサステナビリティ情報、監査報酬等の多彩な非財務データの一部をダウンロードいただけます。 導入検討の際の参考資料等にぜひご活用ください。